研究内容
カーボンニュートラル達成のための基準作りに貢献しよう!
①低GWP冷媒への転換にむけた安全性確保に資する研究
冷媒(エアコン用のガス)にはハイドロフルオロカーボン(HFC)と呼ばれるガスが用いられています。HFCは温室効果ガスの1つに分類されるため,2016年採択のモントリオール議定書キガリ改正で削減が求められています。これに対応するため,自然冷媒(プロパン)や混合系冷媒など,圧倒的にGWP(地球温暖化係数)の小さいガスへの転換が求められています。ところがこれらのガスは大小はあるものの燃焼性あるいは自己分解反応性を有するので,着火・爆発等の防止のために,考えられる漏洩シナリオや着火源を網羅した着火性評価が必要です。そのために産学官が連携したプロジェクトが,(国研)新エネルギー・産業技術研究開発機構(NEDO)によって進められています。本研究室もこれに参画しています。
2011~15年度のプロジェクトでは,主に微燃性冷媒(R32, R1234yf, R1234ze(E))をビル用マルチ空調機器や家庭用空調機器,チラー,自動車などに搭載した場合を想定し,想定される着火源についてその着火性を評価しました。得られた成果により,高圧ガス保安法冷凍則の改正にも資しています。
2018~22年度のプロジェクトでは,自然冷媒(プロパン)を家庭用空調機器及び業務用冷凍冷蔵機器に搭載することを想定して,電気スパーク,熱面,レーザーなどによる着火性の評価を行いました。具体的には家電製品のリレー接点で生じる放電,コンセント抜き差しでの着火性,照明スイッチのON/OFF時の着火性,高温熱面(たばこ)による着火性などを調べました。
左:リレー接点における放電でのプロパン/空気予混合気の着火の様子 右:コンセント抜き差しによるプロパン/空気予混合気の着火の様子
2023年度からのプロジェクトでは,自己分解反応性を有する冷媒が,冷凍サイクルの中で実際に自己分解反応を生じることがあるか否か,エネルギーの面から調べる研究を行っています。
②アンモニア燃料船内での漏洩事故を想定した影響範囲推定手法の確立
カーボンニュートラル達成のため,船舶エンジンの燃料をアンモニアに置き換える検討が進められています。ところがアンモニアは①毒性がある,②弱いながらも燃焼性がある,ということから,万一漏洩した場合にどこまで影響範囲が広がるかをあらかじめ把握しておく必要があります。もちろん,実験をして濃度を測定すればよいのですが,エンジン室にはさまざまな機器がありますので,その影響で流れ場も複雑になるでしょうし,船舶1つ1つでその配置なども異なるでしょう。そもそも船のエンジン室となると大規模なので,そう簡単に何度も実験ができるわけでもありません。そこで,数値シミュレーションを用いてアンモニア漏洩時の影響範囲を予測できれば非常に有効です。これを達成するための研究を,日本海事協会と共同で実施しています。